平日休みの特権とでも言おうか。
映画を観る前にちょっと腹ごしらえ…そんな軽い気持ちで向かったのが、神田にあるカレーの名店「本石亭(ほんごくてい)」。カレー屋と聞いていたが、どうやら本業は“バー”らしい。バーテンダーが作る本格カレーという、そのギャップもまた面白い。
JR神田駅の南口を出て、細い路地をくねくねと進む。まさに「隠れ家」という言葉がぴったりの立地で、一度通り過ぎてしまいそうになるが、年季の入った建物の一角に、控えめにその店は佇んでいる。
ドアを開けると、すぐ目の前に9席のカウンターと、二人掛けのテーブルがひとつ。まさに“こぢんまり”という言葉がしっくりくる店内だ。開店は11時30分。数分過ぎて到着した時点で、既に店内には6人ほどの先客がいた。全員がカウンターに静かに座り、カレーの登場をじっと待っている。その姿から察するに、開店前から並んでいたのだろう。人気ぶりが伺える。
そして厨房の奥には、黙々とカレーを仕上げるマスター。実に寡黙だ。無言でルーをかき混ぜる姿から、料理への集中力と矜持が伝わってくる。カレーを炒める音だけが静かに店内に響き、客も自然と無言になる――独特の緊張感が心地よく、食欲が高まる。

本日のカレーメニューと辛さの段階
欧風カレー ★☆☆☆(マイルド)
ドライカレー ★★☆☆(中辛)
インド風カレー ★★★☆(辛口)
キーマカレー ★★★★(激辛)
加えて、ビーフコロッケやヒレカツなど9種のトッピング(100〜250円)も用意されている。温野菜(150円)や半熟玉子(100円)は特に人気が高いようだ。ライスは大盛り無料、特盛は+100円でルーも増量されるというサービスぶり。
インド風カレー+温野菜&半熟玉子トッピング

今回オーダーしたのは、辛さレベル★★★☆の「インド風カレー」。辛いもの好きとしては見逃せない一品だ。トッピングは迷った末に、半熟玉子に加えて温野菜もプラス。
先に提供された他のお客さんのカレーをチラッと見ると、温野菜がやたらと美味しそうに見えてしまって…ついつい後追いで注文。結果的にこれが大正解だった。
登場したプレートには、スパイスの香りが立ち上るカレーと、艶やかに煮込まれた色とりどりの野菜たち。ナス、にんじん、かぼちゃ、ブロッコリーなど、それぞれの野菜が主役を張るように旨みをしっかり纏っていて、これぞ“美味い温野菜”という感じ。
肝心のカレーは、じんわり汗がにじむ辛さながら、スパイスがきちんと立っていて、ただ辛いだけじゃない。コクもあり、後を引く旨さだ。ご飯の量も男性でも十分なボリューム。女性には少し多めかもしれない。
半熟玉子を途中で割れば、黄身がスパイスをまろやかに包み込む。口の中で辛さと甘みのハーモニーが生まれ、つい箸(というかスプーン)が止まらなくなる。
相方は欧風カレーを注文

同行した相方は、最もマイルドな「欧風カレー」をチョイス。辛さレベルは★☆☆☆。見た目もインド風より優しい色合いで、温野菜と半熟玉子がトッピングされたそのビジュアルは、食欲をそそる。
一口味見をさせてもらったが、こちらはルーがまろやかでコク深く、まさに“王道の欧風カレー”といった印象。辛さを求めない人にはこれがベストかもしれない。
無言の空間が、逆に居心地良い
「本石亭」の特筆すべき点のひとつが、マスターの寡黙さ。注文もタイミングを見計らって取りに来てくれ、提供時も会釈とアイコンタクトのみ。会話がほとんど交わされない店内では、ドライカレーを炒める“カタカタ”という音が唯一のBGM。
それがなぜか、心地よい。静けさの中で、スパイスの香りとカレーの余韻に集中できるという贅沢な時間だ。マスターは喋らないが、客の動きはしっかり見ている。そんな気配りも、この店の魅力のひとつだろう。
カレー激戦区・神田で光る一軒
神田~神保町~御茶ノ水は、言わずと知れた“カレー激戦区”。個性派や老舗も多く、正直、どこに入るか迷うこともある。
そんな中で、「本石亭」は確実に“また来たい”と思わせてくれる一軒だった。まだ制覇していないドライカレーやキーマカレーも、近いうちに味わってみたい。
映画の前に、ちょっとした冒険気分で裏路地に踏み込んだら、思いがけず「本物」に出会えた――そんな昼の記憶が、スパイスの余韻とともに心に残る。
本日もご馳走さまでした。
店舗情報
店名:本石亭(ほんごくてい)
住所:東京都中央区日本橋本石町4-4-16
営業時間:
ランチ:11:30~13:00(売り切れ次第終了)
ディナー:20:00~23:00(土曜・祝日は夜営業のみ)
定休日:日曜日
駐車場:近隣に有料駐車場あり
掲載サイト:食べログ